燃やせるごみ

神になりたい人のブログ 頑張って小説書いてるけど上手くできない Twitter@hasegawa_scond

黄色いレインコート

 雨がザアザアと降る夜のことです。哲郎は傘もささずに濡れたまま、道路の端っこをテクテク歩いておりました。車が後ろからやって来ては、端に溜まった泥水を跳ね上げ、また濡れてしまうのでした。

 

 それはいつもの事でした。哲郎は傘を持っていないので、移動中に雨が降れば、びしょ濡れになり、雪が降れば、頭の先っぽが真っ白になるのです。今日も同じように、びしょ濡れになったまま歩き、明日風邪をひかないよう祈って、そして寝るだけなのです。そう思っていました。

 

 無心でテクテクと歩いていると、突然、目の前の街灯がパッと強く光って、世界が真っ白になってしまいました。哲郎は驚き、素早く目をつぶって、少し経ってから開くと、次の瞬間には何事もなかったかのように、どす黒の空が口を開けております。放心状態のまま突っ立っていると、また後ろからやって来た車に泥水をはねられ、びしょ濡れになってしまうのでした。哲郎はなんだか急に、ひどく腹が立ってきて、この気持ちをどこにぶつけてやろうかと辺りを見回すと、なんとすぐ後ろに、真っ黄色のレインコートを着たおじいさんが、立っているではありませんか。それに全く気づいていなかったので、今度はひどく驚いてしまい、声も出せないほどでした。足はガクガク震え、目の焦点が定まりません。奥歯はガチガチと鳴り出し、今にも失神してしまいそうです。

 

 「やあやあ、若者や。君の拳は飾りかね。怒りたいなら怒るといい。悲しいのなら、泣けばいい」

 見兼ねたおじいさんが、優しい声でそう言いました。それで少し落ち着いて、それから3回くらい深呼吸をすると、もういつも通りになりました。ばつが悪そうにそっぽを向いて、そして素っ気なく答えました。

「僕の権利は、没収されてしまいました。暴力を振るう権利が、泣く権利が、僕にはもう無いのです。毎日毎日、ひたすら歩いて、この街に貢献することが、僕の生きがいであると、そう決められてしまいました」そう言い終わると、くるりと振り返って、また歩き出します。おじいさんは気の毒に思って、

「それなら、私のレインコートをあげよう。雨に濡れるのは辛いだろう? それくらいはしたって、いいじゃないか」と言いながら、ついて行きます。

 哲郎はテクテク歩いまま答えます。

「ダメです。それは認められていません。僕には傘や、カッパや、それに類いする物を所有する権利が与えられていないのです。もしそんな事をしたとバレた日には、僕の命なんて、蝋燭についた火みたいに、簡単に消し飛んでしまうでしょう。優しいおじいさん。どうか僕の為に、そんな事を言わないでください。死ぬくらいなら、ひたすら歩き回って、この街の、あの美しい電灯世界に貢献したいのです」

「そうか、そうか。君は優しいのだね。君みたいな、優しい若者のおかげで、私達老人は生きていけるんだ。本当に、ありがとう」

 おじいさんはそう言うと、追いかけるのをやめました。

 

 次の瞬間、また街灯がビカっと光って、世界が白くなり……いつも通りの時間が始まりました。哲郎は止まる事なく、歩き続けていましたが、突然立ち止まって、大きくため息をつくと、ゆっくりと後ろを振り返りました。黄色いレインコートを着た人影は、もうありません。その代わりに、傘もささずに歩いている、何十人もの若者達がいるのでした。

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